外貨建て金融商品とは、保有する資産(円)を、米ドル、ユーロ等の外貨に交換して運用するものであり、投資手法の基本・基礎である「分散」の幅を、「通貨」の要素でより拡大することができるものといえます。
つまり、株式、債券、投資信託等、複数の金融商品に資産を分散していたとしても、それが国内通貨の日本円建てのみであった場合、仮に国際情勢の変化等により円安が進行、輸入品の価格高騰により国内の物価が上昇していった場合、その資産価値は全体的に目減りしてしまうことになります。このような折、日本円建てと併せて外貨建ての金融商品を保有していれば、外貨建て資産は円建て資産に相対して増大することになるため、この様なリスクにも広く備えることができるようになるのです。
それでは、今回は外貨建て金融商品の中でもより分かりやすく、比較的簡単に始めることができる「外貨預金」について見ていきましょう。
日本円での預金と同様、外貨預金にも普通預金と定期預金があります。まずは金融機関に外貨預金口座を開設する必要がありますが、手数料が安く、軽易に手続きや取引ができるネット系銀行等から自分に合ったところを探してみるのが良いでしょう。
外貨預金のメリットは第1に金利の高さです。円での定期預金の場合、条件の良いネット系銀行でも1年ものでせいぜい約0.2%程度の金利であるのに比し、米ドルでの定期預金では、同一条件で約0.5%程度の金利が設定されています。また、将来にわたり見通される為替変動リスクをよく考慮する必要がありますが、ニュージーランドドルの場合、約1%、南アフリカランドの場合は、約3%もの金利が得られます。長期運用すればするほど、その差は見逃せないものになるといえるでしょう。
第2のメリットは、前述のとおり、円安の場合は為替差益が得られることです。ただし裏を返せば円高の場合は差損となるため、リスクとして含みおいておく必要もあるでしょう。
反対にデメリットとして挙げられるのは、まず為替手数料がかかることです。また、円から外貨への交換にあたってのレート(TTS:Transfer Selling Rate)と、外貨から円への交換レート(TTB:Transfer Buying Rate)は、日々の為替変動に基づきそれぞれの金融機関で定められますが、預金の引き出しにあたってはその差分が差し引かれることになることも予め考慮しておく必要があります。
もう1つのデメリットは、預金保護制度(ペイオフ)の対象とならないことです。円預金の場合は、預入金融機関が破綻した場合でも、1000万円以内であれば元本とその利息分が法的に保護されますが、外貨預金はこの対象とはなりません。
よって、預け入れを始めるにあたっては、為替手数料と、交換レートの差分が出来るだけ抑えられるとともに、将来破綻する恐れの少ない信頼できる金融機関を選定することが重要です。
では、外貨預金で得られる利益の一例をケーススタディ的にみてみましょう。
Aさんは、S銀行に昨年の2021年1月某日(当日のS銀行におけるTTS:103.30、TTB:103.10)に、1万米ドル換算で外貨定期預金(1年もの:金利0.5%)への預け入れを開始し、今年の2022年1月某日(同TTS:115.20、TTB:115.00)に満期を迎え、これを引き出したとします。この場合の運用利益の計算は以下の通りです。
預入時の円/ドル交換のTTSは103.30のため、1万米ドル換算のために103万3千円を預け入れることになりました。1年後、金利0.5%がつくため、預入額は合計1万5百米ドルになっています。なお、円預金と同じく、得られる利子には20%の源泉分離課税が科せられるため、税引後の預入額合計は1万4百米ドルです。これがその時のTTB 115.00で円に換算されるため、満期解約により引き出される合計額は119万6千円です。
こうして、1年前に運用を開始した元本から、得られた利益の額は16万3千円、約16%の年利回りとなりました。
この1年間は全体的に大きく円安の方向に進んだため、Aさんはこの外貨定期預金で大きな利益を得ることになったのです。
このように、適切に将来を見通すとともに、制度の仕組みやリスクをよく理解して取り組めば、外貨預金は手近で有用な資産形成手段の一つになるといえるでしょう。