投資手法の基本・基礎

定年退職後、手にした多額の退職金を、何の基礎知識もなく、他人から勧められるがままに、脈絡なく、目の前の金融商品に手を出すようなことがあってはなりません。投資を始めるにあたっては、基本的な手法を押さえておく必要があります。そのキーワードは、「分散」及び「長期」です。

まず、「分散」についてです。

投資先となる金融商品には、様々な種類のものがあります。我々にもっとも馴染みの深いものは、預金・貯金でしょう。当初預けた金額(元本)が必ず保証されることから「貯蓄型金融商品」と称されます。ただし、得られる利率は少なく、低金利の現在においては一般的に0.001%程度、高金利のネット系銀行定期預金でも0.02%程度の年利となっています。

次に、国や企業等発行の借用証書を購入する「債券」です。安定した国家や業績が好調な会社の債券は市場価格の上昇が期待できる一方、万一、経済破綻や業績低下が生起した場合、値下がりにより元本割れをする可能性もあります。このように、ある程度のリスクはあるものの、それに応ずる相当の利子も得られ、例えば現在、日本国債10年ものだと0.06%、米国債10年ものは1.4%、少々特殊なハンガリー国債10年ものでは3.4%の年利回りとなっています。

その他には、株式(日本国内株式、米国株等の外国株式)、投資信託、金投資、デリバティブ取引(現物市場と連動して価格が変動する金融派生商品。FX等もこの一種)等があります。また、金融商品の分類ではありませんが、不動産も投資先の一つとして挙げられます。

これら列挙した金融商品等には、リスク率に相関する利益率(リワード)、経済・社会情勢との相関関係(例えば、投資信託の中には、平均株価が下落している時に逆に価格が上昇する「ベア型」という商品もあります。)、資産の流動性(現金化の容易性)等、様々な特性、価格変動の要因があります。ここで重要なのが、ある一つの金融商品に資産を集中させるのではなく、異なる特性を有する複数の金融商品に分散した投資を行い、経済・社会情勢等の変動に伴う資産への影響を緩和し得る態勢を取っておくということです。このように、複数種類の資産へ配分を行うことを「アセットアロケーション」といい、それにより資産運用を行うことを「ポートフォリオ運用」といいます。

前回記事で、「複利」は、時間をかければかけるほどその効果は右肩上がりに増大していくことが期待できるのはお伝えした通りですが、改めて、もう一つのキーワード「長期」についてお話しします。

例えば、株式は日々価格が変動し、その幅は場合によっては大きく振れることもあります。 

個人投資家が陥りやすい典型的な失敗の事例として、この様な短期的な変動に一喜一憂、価格が高騰したのに飛びつき多額の資金を投入すると、その反動で価格が急降下、元本からのマイナスが大きく膨らむのを目の当たりにし、これ以上の目減りは耐えられないと売り逃げると、今度はそのとたん価格が急上昇、「このまま株式を保持していれば相当の利益を得られたのに」と二重の後悔におそわれる、といったことがよくあります。生半可な知識や経験で、短視点での取引を行い資金を失ってしまう代表的な例です。

長期的な投資とはつまり、このような価格が変動する金融商品を、感情に支配されず、定期的に、かつ一定金額ずつ購入するということです。これにより、価格が高騰している時は少量を、逆に価格が下落している時は多い量の購入を行うことができるため、長期的には安定した収益が期待できることになります。この手法は「ドルコスト平均法」と呼ばれ、積立手法の基本となるものです。なお、国の金融施策である「つみたてNISA」は、正にこの「ドルコスト平均法」を原則としたものです。

投資を始めるにあたっては、この「分散」と「長期」を基本・基礎とし、感情(欲望と恐怖)に支配されて、貴重な資金と時間を失うことの無い様、心掛けていきましょう。