現役自衛官AFPによる公務員の資産運用のはなし

不安感漂う世の中、これから大きく変革していく社会についていけるだろうか、将来のために今できることは何だろうかと多くの人々が漠然と悩み始めています。その悩みのいきつくところの一つはお金のこと、資産運用を如何に行っていくかということだともいえるでしょう。

このような中、一般的に「公務員は安定した職で、このような悩みとは無縁だろう。羨ましいものだ」と思われがちです。実際に公務員、自衛官の方で同じ様に考えている方も多くおられます。それどころか、「そんなお金の事を考えるヒマがあれば、もっと公務に専念すべきだ」と考えている使命感の強い方々も沢山おられるでしょう。でも果たしてそれだけで良いのでしょうか?

私も自衛官として奉職以来、同じような思考で、純粋に職務の内容のみに専念し続けてきた一人です。定年まで十数年のところまでやってきたところ、あるきっかけがあり、自らの今後を老後の先々まで見通して真剣に考えなければと思い至り、これまで全くの無知であったファイナンシャル・プランニング、資産運用の勉強をし始めました。AFPの資格を保有するに至った現在、公務員、自衛官にとっても早い時期から資産運用について十分なリテラシーを持っておくことは必要不可欠だとの想いを益々強くしているところです。

なぜ公務員、自衛官も資産運用を考えていかなければならないか、ある40才幹部自衛官Aさんの人生のキャッシュフローを単純モデルとして例示しつつ、検討していきたいと思います。

Aさんは、妻と子2人で自宅暮らし、年収を800万円、貯蓄を500万円と仮定します。月々の住宅ローンを7万円、生命保険料として月計4万円、生活費、教育費、レジャー費等は平均的な家計にならうものとし、その他の車購入等の臨時出費は無いものとひとまず仮置きします。ここから各種税金を差し引くと年間収支は約50万円のプラスとなり、これを根拠に月々4万円の定期積み立て貯金を行っているものとします。

階級にもよりますが、多くの自衛官に適用される55才で定年退官するとなると、この生活をあと15年間続けた結果、単純計算では約1300万円の貯蓄となり、退職金及び若年給付金計3500万円の支給を受けるとすると、4800万円もの貯金を手にすることとなります。

これで一見、この先の老後は安泰だと思われがちです。しかし、定年が若いAさんが、この先夫婦で貯金を切り崩しながら生活していくすると、年金受給開始となる65才時点では、貯金が約500万円になる計算となります。このままだと、その後は受給する年金とともにこの500万円を切り崩しながら暮らしていくこととなり、先々の不安を常に抱えながら生活レベル落とさざるをえなくなってしまいます。更に、この計算には様々な臨時出費は加味されておらず、例えば車の購入、旅行、子供の結婚援助資金、趣味等のための出費があるとすると、生活は破綻してしまう恐れすらあります。

定年の年齢が早い自衛官は、得られる退職金だけを当てにしていては、高齢になった時にこの様な厳しい現実に直面してしまうことにもなりかねません。ましてやこの先、退職金金額、年金受給額や受給年齢等の条件が現状のまま保たれるかどうかも不透明な状況の中ではなおさらのことです。逆に言えば、このような単純な計算をしてみるだけでも、将来への不安を数値的に可視化することができ、いまからできる備えを検討するための基礎とすることができるとも言えるでしょう。

国家のために働くことは大切なことです。でもそれは、自らの将来に対する安心感があってのことでしょう。そしてそれを掴むにはただ待っているだけでは不十分なのが現実です。職務遂行の弊害となってはなりませんが、少なくとも将来のキャッシュフローの見通しと、必要な取り得る処置を具体的に自ら講じておくことが必要ではないでしょうか。これを怠り、その時になって「こんなはずではなかった。もっと早くから〇〇しておけばよかった」と後悔してもどうにもなりません。

今、自ら講じておくべき処置として、定年後もスムーズに再就職できるだけの健康やスキルを身に着けておくことはとても大切です。更にこれと併せて、資産運用についての知識も若いうちから身に着け、必要な処置を講じておくことがより望ましいでしょう。